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東京高等裁判所 昭和53年(ネ)1556号 判決

控訴人(附帯被控訴人)

八巻フミ

外五名

右六名訴訟代理人

坂根徳博

被控訴人(附帯控訴人)

竹川道人

同(同)

日本火災海上保険株式会社

右代表者

右近保太郎

右両名訴訟代理人

五味和彦

主文

控訴人(附帯被控訴人)らの本件各控訴を棄却する。

附帯控訴人(被控訴人)竹川道人の附帯控訴を棄却する。

原判決中附帯控訴人(被控訴人)日本火災海上保険株式会社敗訴の部分を次のとおり変更する。

附帯控訴人(被控訴人)日本火災海上保険株式会社は、

附帯被控訴人(控訴人)八巻フミに対し、(一)一〇三万七二三三円及びこれに対する昭和五一年四月一日から完済に至る迄年五分の割合による金員を、(二)附帯控訴人(被控訴人)竹川道人に対する本判決が確定したときは、三一万九五七〇円及びこれに対する右確定日の翌日から完済に至る迄年五分の割合による金員を、

その余の附帯被控訴人(控訴人)に対し、(一)一九万四八九三円及びこれに対する昭和五一年四月一日から完済に至る迄年五分の割合による金員を、(二)附帯控訴人(被控訴人)竹川道人に対する本判決が確定したときは、一二万七八二九円及びこれに対する右確定日の翌日から完済に至る迄年五分の割合による金員を、

夫々支払え。

附帯被控訴人(控訴人)らのその余の請求を棄却する。

訴訟費用は第一、二審を通じこれを六分し、その五を控訴人(附帯被控訴人)らの負担とし、その一を被控訴人(附帯控訴人)らの負担とする。

本判決中被控訴人(附帯控訴人)日本火災海上保険株式会社に対し即時支払を命ずる部分は仮に執行することができる。

事実《省略》

理由

(被控訴人竹川に対する関係)〈省略〉

(被控訴人日本火災海上保険株式会社に対する関係)

一被控訴人竹川と被控訴人日本火災海上保険株式会社(被控訴会社という)との間に控訴人ら主張のような保険(本件自動車保険という)契約が締結されていることは当事者間に争がない。

よつて被控訴人日本火災海上保険株式会社は被控訴人竹川に対して被控訴人竹川が本件事故により控訴人らに対し損害賠償責任を負担することによつて被る損害を保険金支払の形で填補すべき義務があるものである。

二しかし控訴人らが被控訴会社に対して直接保険金の支払を請求し得ないことは、原判決理由記載のとおりであるから、これを引用する。

三そこで控訴人らの債権者代位権の行使に基く代位請求について判断する。

先ず本件自動車保険契約を検討するに、本件に適用されるべき昭和四七年自動車保険普通約款一七条一項に「当会社に対する保険金請求権は、……賠償損害に関しては、被保険者が負担する法律上の損害賠償責任の額が、判決、和解、調停または書面による協定によつて被保険者と損害請求権者との間で確定した時から……発生し、これを行使することができるものとします。」と定められているから、被控訴人竹川は、自動車保険契約を締結したことにより、保険事故の発生を停止条件とする保険金請求権を取得し、本件事故発生により約定の条件が成就したとして被控訴人日本火災海上保険株式会社に対して、保険金を請求することができるに至つたものではあるが、なおその請求を現実化するためには、被害者と被保険者との間で所定の形式により損害賠償責任額が確定することが必要であり、この時において初めて保険金請求権の履行期が到来するものと解すべきである。

従つて控訴人らは、被控訴人竹川に代位したとしても被控訴会社に対して現在の給付として保険金を請求することはできないものである。

しかしながら、控訴人らは加害者である被控訴人竹川に対する損害賠償請求と保険者である被控訴会社に対する保険金請求権の代位行使による請求を併せて訴求し本件において併合審判されいるのであるから、現在の給付として右代位による保険金請求をなし得ない場合は、予備的に被控訴人竹川との間において損害賠償責任額が確定したときにはその支払を求めるという将来の給付の請求をも併せ求めているものと解すべきことは弁論の全趣旨から明らかである。そしてかかる請求は本件自動車保険契約の性質に反するものでなく、右請求を排斥すべき何らの実質上の根拠もないから他の要件の充たされる限り認容さるべきものである。

ところで将来の給付の訴は「予めその請求をなす必要のある場合」に限つて許されるのであるが、右保険金請求権は前記の如く被控訴人竹川に対する判決確定と同時に履行期が到来するものであること、被控訴人らが損害賠償義務、保険金給付義務を争い、控訴人らは損害の速かな賠償を得べき必要に迫られていることよりみると、控訴人らの被控訴会社に対する代位に基く保険金請求は「予めその請求をなす必要のある場合」に該るものと解し得る。

ところで控訴人らが被控訴人竹川に対して前認定の通り損害請求権を有することが明らかであり、原審における控訴人八巻専文、被控訴人竹川道人の各供述によると、被控訴人竹川は小規模なガラス店に勤める一店員であつて資産を有しない者であることが認められるので、右損害賠償債務を支払う資力のない者ということができる。よつて控訴人らは被控訴人竹川に対する損害賠償請求権を保全するため代位して被控訴人竹川の被控訴会社に対する保険金請求権を行使することが認められる。

因みに本件のように被控訴人竹川の控訴人らに対する損害賠償義務が未確定の間は、右被控訴人が被控訴会社に対して保険金請求を行使できないことは前説示のとおりであるから、債権者代位権の客体である保険金請求権が適法に行使されているため代位行使が許されない事態は発生し得ないものである。

前認定のように控訴人らの被控訴人竹川に対する損害賠償請求権は保険金額の範囲内にあるから、控訴人らは被控訴人竹川に代位して被控訴会社に対して、被控訴人竹川に対する本判決が将来確定したときには右損害賠償請求権と同額の保険金の支払を求める権利がある。

(結論)

〈中略〉

次に被控訴会社は、控訴人らの被控訴人竹川に対する本判決が確定したときは、控訴人らに対して被控訴人竹川に対する前認定の損害賠償請求権と同額の保険金及び右判決確定日の翌日から完済に至る迄民法所定年五分の割合による損害金を支払う義務があるので、控訴人らの被控訴会社に対する本訴請求は右の限度で理由があり、その余は失当である。

しかしながら被控訴会社は無条件で「被控訴会社は控訴人フミに対し一〇三万七二三三円、その余の控訴人らに対し各一九万四八九三円及びこれらに対する昭和五一年四月一日から完済に至る迄年五分の割合による金員を支払え。」との判決を求めているのであるから、右金額の部分について前記のように控訴人らに条件を付した請求権を認めることは不服申立の限度を超えたものとして許されない。

従つて控訴人らの前記認容すべき被控訴会社に対する請求のうち右金額の部分については条件を付さないこととし、その余は前記条件を付することになる。

控訴人らの被控訴会社に対する本訴請求は右の限度で認容し、その余は失当として棄却すべきものである。〈以下、省略〉

(吉岡進 前田亦夫 手代木進)

別表〈省略〉

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